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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)4793号 判決 1984年7月20日

原告

小海花代

ほか七名

被告

櫻沢竜一

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告小海花代、原告米川ウメ、原告佐々木玉江、原告羽鳥鐵義、原告羽鳥石松に対し各金三〇一万一一五一円、原告小宮山しづ子、原告相崎アサ子、原告羽鳥育男に対し各金一〇二万〇三八三円、及び右各金員に対する昭和五八年五月二〇日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

五  ただし、被告らが各自、原告小海花代、原告米川ウメ、原告佐々木玉江、原告羽鳥鐵義、原告羽鳥石松に対しては各金三〇一万一一五一円、原告小宮山しづ子、原告相崎アサ子、原告羽鳥育男に対しては各金一〇二万〇三八三円の各担保をそれぞれ供するときは、当該担保を供した被告は、右各担保を供した相手方である原告と当該被告との間における前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐡義、同羽鳥石松に対し各金五二〇万六六七八円、原告小宮山しづ子、同相崎アサ子、同羽鳥育男に対し各金一七三万五五五〇円、及び右各金員に対する昭和五八年五月二〇日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五七年一一月一三日午後六時ころ

(二) 場所 東京都世田谷区三軒茶屋一丁目一一番二〇号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 自家用普通乗用自動車(品川五七ゆ三六一三)

右運転者 被告櫻沢竜一(以下「被告竜一」という。)

(四) 事故態様 訴外亡羽鳥節子(以下「亡節子」という。)が前記交差点を歩行中加害車両に衝突され、頭頸部外傷、頭蓋骨々折、脳挫傷、急性硬膜下血腫の傷害を受け、昭和五七年一一月一八日死亡した。

2  責任原因

被告らは、いずれも加害車両を自己の運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 葬儀関係費用 金二六三万八〇〇〇円

亡節子の葬儀関係費として金二六三万八〇〇〇円を要し、原告らは、これを後記相続分の割合により負担し支出した。

(二) 逸失利益 金三四一〇万二〇六八円

亡節子は、前記事故(以下「本件事故」という。)及び死亡時、四九歳の女子で、訴外遊楽商事株式会社に勤務し、年額四四八万八〇〇〇円の所得が見込まれていたもので、本件事故がなければ、六七歳までの一八年間稼働が可能で、その間少なくとも右所得を得られた筈であるから、右金額を基礎に、生活費として三五パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して、同女の事故及び死亡時における逸失利益の現価を算出すると、次の計算式のとおり、金三四一〇万二〇六八円(一円未満切り捨て)となる。

計算式 4,488,000×(1-0.35)×11.690=34,102,068

(三) 慰藉料 金一二〇〇万円

亡節子は本件事故により多大の精神的苦痛を被つたのであり、これを慰藉するための慰藉料としては金一二〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 金二五〇万円

被告らが損害額を任意に支払わないため、原告らは、やむなく原告訴訟代理人に本訴の提起追行を依頼したが、弁護士費用としては金二五〇万円が相当であり、原告らは、これを後記相続分の割合により負担した。

(五) 損害のてん補

原告らは、損害のてん補として、加害車両の加入する自賠責保険から金二〇〇〇万円の支払を受けた。

(六) 前記(一)ないし(四)の合計額から(五)の金額を控除すると、残額は金三一二四万〇〇六八円となる。

4  原告らの身分関係及び権利の承継

原告小海花代、同米川ウメは亡節子の姉で、原告羽鳥鐡義、同羽鳥石松は亡節子の兄で、原告佐々木玉江は亡節子の姉である訴外亡佐々木芳野(昭和三七年死亡)の子で、原告相崎アサ子、同羽鳥育男、同小宮山しづ子は亡節子の兄羽鳥金太郎(昭和四九年死亡)の子であつて、他に亡節子の相続人は存しない。

したがつて、原告らは、亡節子の損害賠償請求権を法定相続分(原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐵義、同羽鳥石松は各六分の一、その余の原告らは各一八分の一)の割合で相続(原告佐々木玉江、同相崎アサ子、同小宮山しづ子、同羽鳥育男は代襲相続)取得した。

そうすると、葬儀費用及び弁護士費用の分を含め、原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐵義、同羽鳥石松は、各金五二〇万六六七八円(一円未満切り捨て)の、その余の原告らは、各金一七三万五五五〇円(一円未満切り捨て)の各損害賠償請求権を取得した。

5  そこで、原告らはそれぞれ、被告らに対し、各自、請求の趣旨のとおりの各損害賠償額及び右各金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五八年五月二〇日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、(一)ないし(三)の事実は認め、同(四)の事実中亡節子が歩行中であつたことは否認(後記「過失相殺」で主張するとおりである。)し、その余の事実は認める。

2  同2の事実中、被告らがいずれも加害車両の運行供用者であることは認め、責任は争う。

3  同3(一)の事実につき、事故と因果関係のある葬儀関係費は金五〇万円が相当である。同(二)及び(三)は争う。(二)の逸失利益につき、生活費の控除率は低きに失する。同(四)の事実は不知。同(五)の事実は認める。

4  同4の事実中、原告らの身分関係は不知、その余の事実は争う。亡節子の逸失利益の相続取得の主張につき、亡節子には内縁の夫があり、同女の労働能力(所得)は右内縁の夫のため費された筈であるから、同女の兄弟姉妹又はその代襲相続人である原告らの、右相続取得の主張は失当である。

三  抗弁(過失相殺)

1  本件事故現場は、玉川通り方面から竜雲寺方面に通じる幅員約六・〇五メートル(車道幅員三・三メートル)のアスフアルト舗装道路(以下「甲道路」という。)と、三宿通り方面から明治薬科大学方面に通じる幅員約五・二メートル(両側に各一・三メートルの路側帯がある。)の舗装道路とが交差する交差点付近であつて、右交差点から甲道路玉川通り方面は左側にカーブしているが、見とおし状況は良く、最高速度は毎時三〇キロメートルに規制されていて、乙道路は三宿通り方面から明治薬科大学方面に向け「一方通行」の指定があり、また本件交差点手前に一時停止の標識が設置されている。なお、現場には街路燈等の照明設備は設置されていない。

2  被告竜一は、加害車両を通転し、甲道路を玉川通り方面から竜雲寺方面に向け、前照燈を点燈して時速約三〇キロメートルで走行し本件交差点にさしかかつたが、乙道路の安全を確認したうえ交差点に進入したところ、自車直前約五メートルの地点に亡節子が突然飛び出してきたのを発見し、直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず衝突した。

3  以上の点からすれば、亡節子にも、夜間暗い場所で、加害車両が接近しているのを前照燈の照射により容易に確認し得たのに、乙道路から優先道路である甲道路上に飛び出したもので、本件事故発生について重大な不注意があつたというべきであるから、相当程度の過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録各記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実中、同(四)の事故態様につき亡節子が本件交差点を歩行中であつたとの点を除く事実、及び同2(責任原因)の事実中、被告らがいずれも加害車両の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

二  事故態様及び過失相殺の主張につき判断する。

いずれも成立に争いがない乙第一ないし第一一号証、第一二号証の一及び二、証人菅野圭子の証言、被告竜一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、

1  本件事故現場道路は、別紙図面のとおりで、市街地にあるいわゆる裏通りで、玉川通り方面(西)から竜雲寺方面(東)に通じる幅員約六・〇五メートル(車道幅員約三・二メートル)の両側に路側帯(北側路測帯は幅員約一・四五メートル、南側路側帯は幅員約一・四メートル)のあるアスフアルト舗装された平坦な甲道路に、三宿通り方面(北)から明治薬科大学方面(南)に通じる舗装された乙道路が若干東西にずれて交差する信号機のない変形の十字路交差点内であり、乙道路は、右交差点から、三宿通り方面に向けては幅員約三・六五メートルで、明治薬科大学方面に向けては幅員約五・二メートル(車道幅員二・六メートルで両側に幅員各一・三メートルの路側帯がある。)で、三宿通り方面から本件交差点に向けて「一方通行」の指定があつて、乙道路の交差点手前には一時停止の標識が設置されている。甲道路は、本件交差点から玉川通り方面に向け左にカーブ(クランク状)していて、道路両側には住宅や駐車場がならび、玉川通り方面から進行する車両にとつて前方の見とおしは良いが本件交差点の乙道路への見とおしは悪く、交差点の東南及び北西角にはカーブミラーが設置されている。なお、最高速度は毎時三〇キロメートルに規制されている。

2  被告竜一は、加害車両を運転して、甲道路を玉川通り方面から竜雲寺方面に向けて前照燈を下向きに点燈し、時速約三〇キロメートルで進行し、道路の前記カーブ状況等のため道路右側部分(車体右側が道路右側の路側帯線付近に位置する程度)に寄つて走行しそのまま交差点手前に至つたが、その際、亡節子を自車直前約四・四メートル先に初めて発見し、あわてて急制動の措置をとるとともに、右転把して衝突を避けようとしたが間に合わず、自車前部を同女に衝突させ、約八・八メートル先の道路右側ガードレールに衝突して同所に停止した。

3  亡節子は、本件交差点の南西角で路側帯から約〇・八五メートル交差点内(北方)の地点を明治薬科大学方面から三宿通り方面に向け横断歩行中(同女が加害車両の直前に飛び出したことを認めるに足りる証拠はない。)、前記のとおり加害車両に衝突された。

以上の事実が認められ、証人菅野圭子の証言及び被告竜一本人尋問の結果中の右認定に反する部分は、叙上認定に供した前記各証拠に照らして直ちに措信できない。

右各事実によれば、被告竜一には前方不注視、徐行義務違反、道路右側部分通行の過失があるが、亡節子にも、夜間、加害車両の接近を容易に覚知し得たにかかわらず、左方の安全を確認せず交差点内に進出した不注意があり、事故現場の道路状況に照らし本件における節子の過失相殺率は五パーセントと認めるのが相当である。

三  損害

1  葬儀関係費 金八〇万円

原告羽鳥鐵義本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二〇号証の一及び二、第二一号証、同原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡節子の葬儀関係費として金八〇万円以上を要し、右費用を原告らにおいて後記認定の相続分の割合で負担したことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、そのうち金八〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

2  逸失利益 金二六六九万一四八二円

成立に争いがない甲第二、第四号証、乙第七号証、原告羽鳥鐵義本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一七ないし第一九号証、同原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、亡節子は、事故及び死亡時四九歳の健康な女子で、昭和四五年末から訴外森本安彦(事故当時板前、現在無職)といわゆる同棲生活を送り、また昭和二八年ころから同女の兄原告羽鳥鐵義の経営する訴外遊楽商事株式会社(パチンコ店、飲食店)に仕入れ担当として勤務し、昭和五七年一月一日から同年一一月一三日(事故発生日)までの三一七日間に本給及び諸手当として合計金三四二万九一一一円の、昭和五七年七月一〇日夏期賞与として金三〇万九二〇〇円の各支給を受け、冬期賞与としても少なくとも夏期と同額の賞与の支給を受け得た筈であつて、右によれば、昭和五七年度は、計算式(一)のとおり、年額金四五六万六七四五円(一円未満切り捨て)の所得を得られた筈であり、事故がなければ、今後六七歳までの一八年間稼働が可能で、その間少なくとも右所得を得られた筈であるから、右金額を基礎に、生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡節子の事故及び死亡時における逸失利益の現価を算定すると、計算式(二)のとおり、金二六六九万一四八二円(一円未満切り捨て)となることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

計算式(一) (3,429,111÷317×365)+(309,200×2)=4,566,745

計算式(二) 4,566,745×(1-0.5)×11.6895=26,691,482

3  慰藉料 金一一〇〇万円

亡節子は本件事故により多大の精神的苦痛を被つたが、諸般の事情を考慮すると、これを慰藉するための慰藉料としては金一一〇〇万円が相当である。

4  以上によれば、原告ら固有の損害賠償請求権の額は金八〇万円、亡節子の2及び3の損害賠償請求権の額は金三七六九万一四八二円となり、以上の合計額は金三八四九万一四八二円である。

5  いずれも成立に争いがない甲第二ないし第一四号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4で原告らが主張するとおりの相続の事実関係が存在することを認めることができ、右認定に反する証拠はない。右によれば、原告らは、それぞれその主張のとおりの相続分(原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐵義、同羽鳥石松は各六分の一、その余の原告は各一八分の一)の割合で亡節子の右損害賠償請求権を相続取得したものというべきである。

被告らは、亡節子には内縁の夫訴外森本安彦があり、同女の所得は右森本のため費された筈であるから、亡節子の兄弟姉妹らであるにすぎない原告らが同女の逸失利益を相続取得することはないと主張する。しかしながら、事故当時亡節子が右森本と同居していたことは前記認定のとおりであるとしても、それ以上に、同女の生活費を除いた所得が右森本に渡るものであることを認めるに足りる証拠はなく、被告らの主張は理由がない。

6  過失相殺

前記のとおり過失相殺により4の合計額から五パーセントを減額すると、原告ら及び亡節子の有する損害賠償債権額は合計金三六五六万六九〇七円となる。

7  請求原因3(五)の原告らが加害車両の加入する自賠責保険から金二〇〇〇万円の支払を受けたことは原告らの自認するところである。

そして、前記6で認定した金三六五六万六九〇七円から右金額を控除すると、残額は金一六五六万六九〇七円となる。

そこで、前記5において認定した各相続分の割合に応じて原告らの取得した損害賠償債権額を算定すると、原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐵義、同羽鳥石松は各金二七六万一一五一円(一円未満切り捨て、以下同じ。)、その余の原告らは各金九二万〇三八三円となる。

8  弁護士費用

本件事案の内容、難易、審理の経過、及び認容額等に照らすと、原告らが被告らに対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐡義、同羽鳥石松が各金二五万円、その余の原告らは各金一〇万円と認めるのが相当である。

四  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、それぞれ前記7の金額と8の金額を合計した、原告小海花代、同米川ウメ、同佐々木玉江、同羽鳥鐵義、同羽鳥石松は各金三〇一万一一五一円、その余の原告は各金一〇二万〇三八三円、及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年五月二〇日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行及びその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本久)

別紙 現場見取図

<省略>

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